筋トレのために体重(kg)の数字の2倍のたんぱく質(g)を取るのは正しいのか
よくフィットネス系の雑誌やサイト等で、筋トレで筋肉を増やしたい人は体重(kg)の数字の2倍のたんぱく質(g)を取りましょうと推奨されている。 シンプルにいうと、体重*2/1000の量を取りましょうということで、例えば50kgの人で100g、70kgの人で140gが目標値ということだ。
たんぱく質を多く取ったら筋肉がより早く大きくなる、それは正しそうだ。では取りすぎるとどんなリスクがあり、何g以上が取りすぎなんだろうか。
リスクについて調べてみる
厚労省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書*1に よれば、
- 推定平均必要量は18歳以上の男性で50g、18歳以上の女性で40g
- 推奨量は18歳以上の男性で60g、18歳以上の女性で50g
- たんぱく質エネルギー比率が 20%を超えた場合にリスクがありうる
ということらしい。このリスク部分の説明を引用すると、
たんぱく質エネルギー比率が 20% エネルギーを超えた場合の健康障害として、糖尿病発症リスクの増加、心血管疾患の増加、がんの発症率の増加、骨量の減少、BMI の増加などが挙げられる。たんぱく質と糖尿病発症リスクとの関係を認めた研究 並びに、最近の系統的レビューでは、これらのどの事象についても明らかな関連を結論することはできないとしながら、たんぱく質エネルギー比率が 20% エネルギーを超えた場合の安全性は確認できないと述べ、注意を喚起している。
とのこと*2。 ここで挙げられているリスクの1つ、がんについて少し書くと、ロイシンについての記事(筋肉量を増やすロイシンとロイシンを多く含む食品 - プロテインDIY日記)の時に書いたように、ロイシン(たんぱく質に含まれるアミノ酸の1つ)はmRNAの翻訳を促進することでたんぱく質の合成を促進する。これはすごく根源的な活性の向上で、平たくいうと「どんな細胞も増えやすくなる」ことだと理解している。だから、老人のがんより若者のがんの方が進行しやすいのと同じように、ロイシンの(≒たんぱく質の)摂取量が多い人はがんが進行しやすいというのは当然ありそうだと思うし、発生初期のがんが、普通の状態なら増えるスピードより免疫機構に排除されるスピードの方が早くて消滅したはずが、スピードが早くなったせいで大きながんに育つ、みたいなことも多分にありそうだなーと思う。
実際にがんになった人の食生活を長期的にトレースしてたんぱく質の摂取量を調べるのは非常に困難だから「明らかな関連を結論することはできない」という結論になりやすいのだと思うんだけど、とりあえずわたしたちはこの
たんぱく質エネルギー比率が 20% エネルギーを超えた場合の安全性は確認できない
という注意喚起を真面目に受け止めた方が良さそうだ。
ではたんぱく質エネルギー比率が20%というのはたんぱく質の量にして何gくらいなのか。
同じく厚労省の、今度は「平成27年国民健康・栄養調査報告」*3から年代別の平均値のデータを引っ張ってくると、
男性の場合
平均的な男性は110gくらいがたんぱく質エネルギー比率20%のライン。
20-29歳 | 30-39歳 | 40-49歳 | ||
---|---|---|---|---|
a | たんぱく質摂取量(g) | 78.3 | 74.8 | 75.1 |
b | たんぱく質エネルギー比率(%) | 14.1% | 14.0% | 13.9% |
c | 総カロリー(kcal) | 2,222 | 2,161 | 2,168 |
d | たんぱく質によるカロリー(kcal) (b*c) | 313 | 303 | 301 |
e | 総カロリーの20%(kcal) (c*.20) | 444 | 432 | 434 |
f | たんぱく質エネルギー比率が20%の場合のたんぱく質摂取量(g) (a/d*e) | 111 | 107 | 108 |
g | 体重(kg) | 68.3 | 71.2 | 70.6 |
h | 体重の数字の2倍(g) (g*2) | 137 | 142 | 141 |
女性の場合
平均的な女性は85gくらいがたんぱく質エネルギー比率20%のライン。
20-29歳 | 30-39歳 | 40-49歳 | ||
---|---|---|---|---|
a | たんぱく質摂取量(g) | 63.2 | 60.4 | 61.5 |
b | たんぱく質エネルギー比率(%) | 14.8% | 14.8% | 14.5% |
c | 総カロリー(kcal) | 1,706 | 1,652 | 1,706 |
d | たんぱく質によるカロリー(kcal) (b*c) | 252 | 244 | 247 |
e | 総カロリーの20%(kcal) (c*.20) | 341 | 330 | 341 |
f | たんぱく質エネルギー比率が20%の場合のたんぱく質摂取量(g) (a/d*e) | 85 | 82 | 85 |
g | 体重(kg) | 52.2 | 52.0 | 55.5 |
h | 体重の数字の2倍(g) (g*2) | 104 | 104 | 111 |
体重(kg)の数字の2倍量のたんぱく質(g)をとるのはリスクがある
上記で見たように、平均的な体重・食生活の人が食事の総カロリーはそのままに体重(kg)の数字の2倍量のたんぱく質(g)をとるとたんぱく質エネルギー比率20%ラインを超え、25%前後になる。ここにはリスクがあると思った方がいい。さらにいうと筋トレをする人は総カロリーを減らすことが多いから(特に減量期)、実際は30%や40%になることもあると思う。
自分のたんぱく質エネルギー比率を計算する
自分は平均と遠いと思う場合もあると思う。そんなときは簡単だからさっくり計算するのがいい。筋トレをしている人なら自分の1日あたりの総カロリーとたんぱく質摂取量はわかると思うから、その前提で計算すると、
たんぱく質エネルギー比率[%] = たんぱく質摂取量[g]×4.0/総カロリー[kcal]*4
で計算できると思う。
逆に、自分のたんぱく質エネルギー比率が20%になるたんぱく質の量を知るには、
たんぱく質の量[g] = 総カロリー[kcal]×0.20/4.0 = 総カロリー[kcal]×0.05
で計算できると思う。ざっくりいうと、2,000kcalとっている人なら100gまでたんぱく質とっていいよっていうことだ。
どうやってリスクコントロールしたらいい?
一番いいのは20%を超えない範囲でたんぱく質を摂取することだと思う。これでも1日の推奨量(男性60g、女性50g)よりはかなり多くできるのだから、20%以上とる場合よりは遅いのかもしれないけれど*5、適切な運動をしていれば筋肉はつくはず。 もう一つは期間を制限すること。短期的に体重の2倍量g摂取して、それで自分が満足のいく体になった後の維持期には20%以下の水準を保つ。そうすれば長期的に多い量を取り続けるよりもリスクを小さく抑えられると思う。
ということで、もちろん at your own risk なので、リスクを承知で体重(kg)の数字の2倍のたんぱく質(g)を取るのはその人の判断として尊重されるべきだと思う。けど、リスクの話をしないで「筋トレするときは体重(kg)の数字の2倍のたんぱく質(g)を取るべき!これが常識!」っていう情報だけがカジュアルにやりとりされてるのは何か違うんじゃないのーって話でした。
*1:http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000041824.html
*2:ほんとは原典に当たった方がいいとは思うんだけど、手間なので一旦孫引きでごめんね。
*3:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
*4:上記の表から逆算するとたんぱく質1gあたりのカロリーは4.0kcalであることを利用
*5:実際のところは検証しないとわからない